わたしを選んでくれた人だから

 

 

 

 

一度もぶれることのない、
強くて優しい、温かい手。

 

 

 

 

たとえある日突然
話せなくなったとしても

 

 

 

 

大切な人との繋がりはきっと
会話だけではないのです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうだいぶ前の話ですが、
ちょうど今頃の暑い季節。

 

 

 

手術後の治りが良くなくて
病気がくすぶっていたある男性。
一気にショック状態になり
集中治療室へやってきました

 

 

 

 

ものの数秒ではじまる心肺蘇生、
人工呼吸器に大量の薬剤、
何とか生命は確保されました

 

 

 

ただ、、、

 

 

 

意識は全く戻ってきませんでした

 

 

 

 

とはいえどんどん治療ははじまっていきます

 

 

 

 

人の身体ってダメージを受けて
炎症反応が起き治療がどんどん始まると

 

 

 

 

その兼ね合いでたくさんの管に繋がれ
顔も手足も身体全体すべて
瞳だってありえないほど浮腫むのです

 

 

 

あっという間に
あまり見てられないような・・・
そんなお姿になってしまいました

 

 

 

 

ー*ー*ー*ー*ー

 

 

 

 

そんななか休むことなく
毎日面会にやって来られたのは

 

 

 

 

とっても小柄だけれども、
とっても明るくて、
とっても優しい奥さま。

 

 

 

 

汗を拭きながら
「お世話になってます〜!」
という元気なごあいさつは

 

 

 

 

何だか面会時間の知らせを
私たちにしてくれるような。笑

 

 

 

 

こちらも習慣になるほど
お顔を合わせお話させて頂きました

 

 

 

 

連日の猛暑の中
時間ぴったりに会いに来られては
明るく話しかける日々でした

 

 

 

 

 

ー*ー*ー*ー*ー

 

 

 

 

 

集中治療にしては
長期戦の戦いになったのですが

 

 

 

 

その間少しずつ身体は危機を乗り越え
治療は少しずつ落ち着きました

 

 

 

 

とはいえ、管だらけの身体。

 

 

 

 

私たちは見慣れていますが
一般の方が見ると
それはそれは異様な光景。

 

 

 

 

許可できない部分も多いですが
それ以上にあまり
触れられない人はとても多いです

 

 

 

 

けれどその奥さまは
物怖じすることなく
変わり果てた姿の旦那さまの
手や頬に触れ続けていました

 

 

 

 

旦那さまの担当ナースだった私は
時間の約束をして奥さまが
毎日もう少し深く関われるよう
お身体のケアを一緒に行いました

 

 

 

 

もちろん負担のない範囲で
毎日頑張る必要がないことも
重々お伝えした上で
慎重にさせていただいてましたが

 

 

 

「触れた方が落ち着くの。
だから、、、ありがたいのよ」

 

 

 

 

この一言がぽろっと出た時

 

 

 

 

あぁ、この時間は、
奪ってはいけないものなんだと

 

 

 

 

それからその習慣は
しばらくずうっと続きました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうこれ以上は…」

 

 

 

 

たくさんの治療は痛くて苦しくて
それこそ死より辛いもの

 

 

 

 

一番の山は乗り越えましたが

 

 

 

やはりダメージを受けた身体は
少しずつ新たな合併症が蝕んでいく

 

 

 

 

そして何より一度も
目が合うことがありませんでした

 

 

 

 

数ヶ月経ち、
いよいよもう厳しい。

 

 

 

 

別室で主治医から話を聞いたあと
旦那さまのそばに戻った奥さまに
しばらくしてから声を掛けてみると

 

 

 

 

でも、私を選んでくれた人だから

 

 

 

 

そう言ってまたいつも通り
旦那さまの頬に触れていました

 

 

 

 

それからさらに数週間後
奥さまが来るのを待つように
ゆっくりと落ちていった旦那さまは

 

 

 

 

駆けつけた奥さまに
頬を触れられながら旅立ちました

 

 

 

 

 

ー*ー*ー*ー*ー

 

 

 

 

 

人って会話ができる分
それに左右されがちで
時に言った言わないに振り回されるし

 

 

 

 

何も与えられないまま
ずっと想い続けることは
かなり難しいことです

 

 

 

 

夫婦ならなおさら、
赤の他人同士の関係ですし

 

 

 

 

言葉に頼りがちな私にも
考えさせられた出来事です

 

 

 

 

変わり果てた姿になってしまっても
一度も目もあわないままでも

 

 

 

 

触れるだけで
想い続けられるものなのか

 

 

 

 

それでも芯のある奥さまの言動は
私を信じさせるには十分でした

 

 

 

 

奥さまは選んでくれたと言いましたが
きっとお互い選び続けてきた
その結果だったんだろうと思います

 

 

 

 

人との繋がりは
きっともっと色んな形があるんだと

 

 

 

 

添えられる手の優しさは
そればかりではないんだと

 

 

 

 

それがきっと「触れる」という形で
コミュニケーションとして
表れていたんですね

 

 

 

 

たとえ声も姿も
見えなくなってしまっても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉や会話が他人へ
勇気や愛や喜びを与えること
それもまた本当のことだと思います

 

 

 

 

私自身もそこは
とても大切にしたいところですが

 

 

 

 

そこばかりに目がいくと
失ったときにきっと苦しい思いをする

 

 

 

 

どれほどの人が
知っているのでしょう

 

 

 

 

大切な人との繋がりは
言葉だけではないことを

 

 

 

 

ご夫婦に限らずとも、
触れることに限らずとも、

 

 

 

 

紡ぐ言葉以上のものを
いつも考えられていられるように

 

 

 

 

私は特にこうやって
言葉で伝えることをしている以上
忘れてはいけないことだと思っています

 

 

 

 

これまでも、これからも。

 

 

 

 

では

 

 

 

 

 

 

 

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